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そうだよ。人間なんだから、仕方ないじゃないか。
「若いわね……」
いつにも増して手早く身支度を済ませるミラベラが少年を横目に見る。
同じく身なりを整えたジルベールは、やや不満げに窓台に腰掛けていた。
「それより、知らなかったんだけど」
「なにが?」
「猫。あなたが飼っていたの?」
「あぁ、その仔ね」
ジルベールは猫を撫でている。薄汚い毛で、首にリボンを巻かれたあの猫だ。
「私のじゃないけど……住み着いちゃったのよ。誰かさんみたいにね。ちゃんと名前もついてるわ?」
「どういう意味だよ」
「さぁ? どういう意味かしら……?」
白状する気はさらさらないらしい。ジルベールが「じゃあ初めから男だって分かって乗り込んできたの?」と聞くだけ無駄だった。
「ふざけんな……もう………」
天を仰げば枠で後頭部を打った。痛い……彼の上に猫がのそりと乗っかってくる。
それから、ジルベールは最も信じられないものを見た。
Mirabella
首元のリボンには間違いなく、そう書かれている。
唖然として声もでない。そのまま顔だけを彼女に向けた。
「だから言ったじゃない。覚えなくていいって」
娼婦は事も無げに一笑した。
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