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As Time Goes By - 時の過ぎゆくままに -
この感情をなんと表現すればいいだろう? 自分の半身をもぎ取られた気分だ。ジルベールはロンドンを出た。
金なら十分すぎるほどあった。普通の十三歳では考えられないくらいに働いて稼いでいたから……
太陽が眩しい。こんな日に限って晴れてやがる……サングラスの下から青い瞳がチラッと覗いた。
愛車の施錠を解除する。免許を取得して一年になるが、乗り回していたせいか慣れるのは早かったように思う。
あの一件は、ジルベールに同情的な意見が多く、当事者の一人だというのに不利益を被ることはあまりなかった。結果、細々と仕事を続けたが、数年後も同じように過ごせている気はしない。
自分自身も、そのつもりはなかった。
夏はジルベールの白い肌を焼いていつも赤くした。彼が嫌う季節だ。
車内につけていたサンシェードをとり外し、ルームミラーの調整をする。
「暑ぃ……」
エンジンをかけて早々にエアコンのスイッチも入れる。僅かに窓を開けて出たが、溶けそうだ。
誰も乗せる予定のない右側の助手席に荷物を放る……といってもボディバッグひとつしかない。
ラジオはディスコナンバーを垂れ流しにしている。聞き覚えがなかったが、趣味が悪いことだけはわかった。
次にDVDへ切り替える。どうやら好きな女優の出演作を入れっぱなしにしていたようだ。
これでいい。
カジノを兼ねた酒場ではピアニストが歌を聞かせていた。
ジルベールは音声だけでも聞いたままでいようと、そのまま車を走らせることにした。
曲のこともあってか、次はパリにでも行こうか? などと考えた。……それともモロッコか?
オランジュのフランス車はあてもなく走り抜ける。
その前に空腹を満たさなければならない。車を降りずとも食べられるものがいい。
選んだのはフィッシュアンドチップスだった。あまりに馴染みすぎたものだが、やはり手軽さが魅力だった。加えて気がついたのは自分があまり食べ物に執着がないということだ。
一人で過ごすようになってからは、胃に詰めるか流し込んでしまえばいいと思っている。
そのため缶コーヒーだけで過ごすこともあった。飲めるものも食えるものも増えたが、飲食などどうだっていいのだ。
――いや、何事にも……か。
指についた油分をジーンズで落とし、再びハンドルを握る。……昔なら絶対にこんなことはしなかった。
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