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どこでもよかった。二人きりになれる場所なら……
初めて、自分でちゃんとしたホテルを取って地下の酒場に連れ立った。
「えぇ、連れです」
短く答えて席に着く。僕らは何の相談も会話もなく一杯目のカクテルを決めた。先に用意されたのは彼女の酒だった。しかし一向に口に運ぶ様子はない。続いて、僕の物もやってきた。
そこでようやく彼女の手が動く。僕のグラスの方に……
「えっ」
思わずそんな声が喉を突いた。ジルベールの手に、あの白魚のような手が重なっている。
オゥエシーズが瞬きをする。
「あっ、そっか。……もう飲めるのね」
「そうですよ。やっと追いついた……あなたの年齢に」
「どういうこと……?」
「僕、二十一になったんです」
注意深く慎重に僕を見ていた。それはジルベールも同じことだ。
ジルベールが「離さないで」と動きを止める。
「あなたに似た女の子を知っている」
言葉のひとつひとつを僕らにとって最も正しい使い方をした。慎重になれ………間違えるな。
「今、僕の隣にいる。彼女は七歳だ」
問い質して、詰るつもりは微塵もない。
「僕とあなたが別れたのは――」
心臓がうるさい。壊れてしまいそうだ……他には何も聞こえなかった。彼女は? どんな声を、どんな顔をしている……?
「何も聞かない。けど………教えて。僕らはあなたの大切な人だった? 答えてくれませんか。エシー?」
「あなたはちょっと知らないオンナを見ただけよ」
「そうかもしれない。でも今は違う」
手当ての際に布切れを使うのも、その布を口で裂くなんて下品な女はいなかった。況してや娼婦なんて初めて見た。会ったこともなかった。
それでも、ダメなのか?
「………ニューヨークにいたんじゃなかったの?」
「そうだよ。でも戻ってきた」
「なんで」
「うん、なんでだろ。気まぐれ……なのかな」
「わがままね」
「よく言われる」
最後にジルベールは彼女にとブルームーンを注文した。
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