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La Vie en rose - 薔薇色の人生 -
足が震えた。今にも腰は砕けそうになっている。正直なところジルベールはどのようにしてミラベラの部屋を出たのか覚えていない。
今までで一番早足で歩いたはずだが、路地裏を抜けるのに随分と時間がかかってしまった。
情けない話が、膝から崩れおちそうだ。
――自分は何も知らなかった。
なんとか壁までは歩み寄り、そのまま背中ごと預けてしゃがみ込む。
「あ~………」
両手で顔を覆って大きく息を吐いた。
いいのか、あんなもの。
頬も、まなじりも耳だってまだ赤い。
ミラベラは、あんなことを平気でしているのか。平気……なのか………
さすがだ、自分とは違う。
____ジルベールは、たまらなくなった。
幸せだった。ミラベラが自分だけを見てくれていたことが分かったからだ。ジルベールは随分と欲深い男だと思っていたのだが、彼は「それが仕事だ」と言われても構わない。気にする余裕もないほど、満たされてしまっていた。
うらぶれた町の壁は外気にさらされて、冷たいはずが、ジルベールは未だにじっとりと汗をかいている。
気持ちいい、気持ちがいい。やめないでくれ――
ただただ堪らなくなって懸命にミラベラを呼んだ。その思いだけが彼を突き動かしていた。なんて不道徳なのだろう!
手荒く扱ったわけではない。そんな術もない。だが、ジルベールは「自分はもう二度と彼女から逃れられないのかもしれない………」と予感した。
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