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 それからしばらくして戻ってきた美奈子の腕には、ようやく満腹になったのか、静かに眠る赤ちゃんが抱かれていた。さっきと同じようにベビーベッドに寝かせ、美奈子も腰を下ろす。 「まだまだ、赤ちゃんの要求がわかるのに時間がかかりそう」 「そうか?」と誠が返答する。 「さっきだって、足りてなさそうってすぐにわかってたじゃん。オレは抱っこして欲しいのかなって思ってたもん、さすが母親だなって思ってたよ」 「……なんとなくよ」  誠は、窓の下に見える銀杏の木々の鮮やかな黄緑に目を奪われていた。もくもくと伸ばす枝に見事についた葉に、生まれたばかりの我が子を重ねるとなぜか感傷的な気持ちになり、涙が出そうになった。 「オレさ、昨日綾子さんから美奈子の話を聞いた時、いろんな感情で混乱しそうになったよ。あの子をいらないって言ったのを聞いた時、どうにかなりそうだった。オレは美奈子にとって魅力のない男なのかもしれないけど、あの子にとって頼りない父にはなりたくない。そんな思いが浮かんだ時、なぜか美奈子のことも守らないとって強く思ったんだ」
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