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いつも物腰が丁寧な彼が不機嫌そうな表情を浮かべるのは、初めてだと思った。
荒々しく音を立てながら部屋を出て行く後ろ姿を見つめ、きっとこれが彼と合間見える最後なのだろうーーと思った。
彼が立ち去ってからどのくらいの時間が経ったのか、湯気の立ち上るカップをずっと見つめていたが、湯気がなくなってもただ見つめ続ける私。
「お下げ致しますか?」
私を窺うような面持ちが逆に申し訳なくなる。
「……いいえ、このままにして。」
「……畏まりました。差し出がましいでしょうが、よろしかったのですか?あのようなこと……」
「いいのよ、これで。すべては私たちの罪。今更弁明なんて出来ないし、してはならないことよ。それほどに私たちの罪は重いのよ。」
表情を青ざめ、小さく肩を震わす侍女を見つめ、私は決意する。
「紹介状を書いたの。」
「……え?なんですか?」
大きく目を見開き、呆然とする彼女を見つめ、言葉が震えないように伝えなくてはならない、そう思った。
「貴女の紹介状を書いたのよ。叔父様のお屋敷で働かせて貰えないか?と打診したの。罪人の屋敷で働く侍女だと醜聞が悪いし、再就職も見つからない可能性もある。早い方がいいと思って……だから、明日から叔父様のお屋敷で働いてちょうだい。わかったわね?」
「な、どういうことですか?私のことを考える前にお嬢様ご自身のことをお考え下さいませ!!」
優しい彼女の言葉が胸を打つ。
しかし、私は決めたのだ。
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