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翌日、 滂沱の涙を流しながら何度も何度も振り返る彼女を送り出し、すっかり寂れた雰囲気の屋敷を門外から見つめる。
実に呆気ないものだ。
多くの人々が働き、常に笑顔が溢れ、笑い声の堪えない屋敷だったのに。
門を潜り、思い出す日々。
季節毎に花々が変わり、彩り美しく咲き誇り、常に綺麗に樹木も揃えられていた庭園が荒れている様は悲しい。
庭園を通りながら思い返す。
屋敷に残るのは、私一人。
玄関を潜り、取り戻せない日々の優しさに涙がこみ上げる。
父母は横領の罪を犯したために牢獄内で既に囚われの身となり、両親を告発した私は国王陛下の御慈悲により、今後の生き方を選択する権利をいただいた。
本来ならば、私も牢獄行き。
でも、国王陛下は子供が親を告発する痛みを慮り、私に選択する余地を与えて下さり、そのことを国民の前で発表し、皆が認めて下さった。
「本当にありがたいことね……私なんかを赦して下さるのだから。」
もう誰も知らない地下室の扉の前に立ち、私は覚悟を決める。
これから先、私は嘘を吐くのだ。
そうーーこれは、悲しい嘘の始まりである。
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