「約束があるんだよね。二人の」

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「またな」と一貴を一瞥し、 陽太郎はまどかの腰に手を回して、 エスコートしながら講堂を出て行った。 (やっぱり、 恋人同士に見えるよな) 普段の仲の良い様子から、 一貴は二人は交際していると思い込んでいた。 以前確認したところ双方ともただの親友であると否定し、 特にまどかは若干怒気を込めていたので、 それ以降は触れてはいない。 しかし、 一貴は二人が何かの理由で公にしないだけで、 そのうち明らかにしてくれると考えていた。 (仲の良い恋人か……) 今の自分と里緒は果たしてどうだろう? そう考えた途端、 気持ちが重くなった。 先日の誕生日での失敗の時、 一貴に対して必要のない詫びを入れた後、 顔をあげた里緒が「気を取り直してパーティ、 パーティ」と言ってお道化て見せた微笑み、 それを見た時の感情が蘇り、 一貴は唇を噛んだ。 (彼女にあんな寂しい笑顔作らせるなよ) 始業のチャイムが講堂に響き、 講師の准教授が登壇する。 あわてて筆記具を取り出そうとした一貴の筆入れからボールペンが床に落ちる。 それは半すり鉢状の講堂の床を下に向けてカラカラと転がっていった。 自分でもハッキリとわかるくらいの舌打ちをして、 一貴は別のペンを手に取って講義に備えた。 (何イラついてるんだ) 焦るなよ、 一貴は自分にそう言い聞かせた。
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