「約束があるんだよね。二人の」

1/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

「約束があるんだよね。二人の」

私立・中慶大学本校講堂。 「どうした相棒? 本日は一段と冴えない顔してるな」 一限目の講義を終え、 一貴がスマホを操作していると、 同級生の平川陽太郎(ひらかわようたろう)が長椅子の隣に腰を下ろした。 「夢遊病」 「は? なにそれ?」 「記憶喪失の上に、 新たな症状が加わったらしい」 一貴はスマホから目を離さずに答えた。 日中はコンタクトレンズを着用している。 その横顔から不機嫌さが滲み出ていた。 陽太郎は「どういう事?」と、 一貴を挟んで同じ長椅子に座るまどかに答えを求めた。 彼女から深夜のリビングでの顛末と、 今朝その確認した時に、 一貴が全く覚えていなかった事を聞くと目を丸くした。 「地震の事も覚えてないのか? 相当ヤバいな。 病院に行った方がいいぞ」 「明後日、 定期受診だからそこで診てもらうよ。 あーあ、 難易度高いわこのゲーム」 一貴は、 アプリを閉じた。 平川陽太郎とは付属の高等部時代からの友人らしかった。 彼の言葉を借りるなら適切な距離を保ちつつ、 それでいて強い絆を持つ親友である……ようだ。 事故後の一貴には陽太郎の記憶も残っていなかった。 記憶を失ってから初めて顔を合わせた時に、 「またイチから友人関係を作っていこうか。 改めてよろしくな、 僕のことはヨータローって呼んでくれ」 そう言って握手を求めてきた。 長身の一貴より拳一つ程背が低い陽太郎は、 相棒の一貴同様、 キャンパスではイケメンと認知される存在だった。 しかし、 どことなく幼い面立ちで笑顔も可愛い反面、 シニカルな性格の彼は周囲からは『微妙王子』と呼ばれていた。 「じゃあ行こうかヨータロー」 2時限目は別棟の講義となるまどかが席を立つ。 陽太郎はまどかとも友人だった。 同じ履修の時は彼女を迎えに来るのがルーティンになっていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!