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20XX年の夏。
アタシは編集会議に遅刻した。
「遅くなりました!」
ドタバタと駆け込んだアタシを見る、先輩がたの冷たい視線。
冷たい、というよりクール。
クールそのもの。
デスクが禁煙パイプを口にくわえたまま言った。
「マジ遅かったな。おかげで全員ゆっくりと、好きな担当が選べた。残りはこれだ」
禁煙パイプで示されたホワイトボードには、『スモー』と『いけばな』しか残っていなかった。
スモーといけばなあ?
きゅっ、きゅうきょくのせんたくっ。
漢字で浮かばないほどテンパるけど、どっちかしかないとしたら、スモー、だ。
いけばなだと、生活情報、家庭部だもん。
下手すると一生、身の上相談とかの記事チェックになっちゃう。
「そう言うと思った。じゃ早速空港行ってくれ。士幌山部屋に外人新弟子が入る」
「は?」
いきなり取材?
まじありえない。
個人所有のホババ~ホバーバイク~で空港まで飛ぶ。
ファルルフからの直行便はもう着いてる。
士幌山部屋はTOKIOタイムス社からかなり隔たるから、何としてもここで関係者と顔つなぎしときたい。
幸いロビーで大男集団を発見、近づいたらドンピシャだった。
「TOKIOタイムスです! 新弟子君取材させてください!」
言いながら、ぐるりとメンツを見渡す。
大柄の男性たち。
といってもブザマに太ったりしてるわけではなく、十分に鍛えられた、筋肉質の肉体の持ち主たちだ。
年とってるけど、いちばんハンサムな大柄が、
「お世話さまです」
と頭を下げてくださった。
(この方が士幌山親方?)
「八木沢さんは?」
「栄転でロシア行きました」
「それって栄転違うっしょー」
「こら、ハヤノテルっ」
士幌山とおぼしき美形老大柄は、若いのを制し、傍らの小さな黒人の男の子をアタシに紹介した。
「ファルルフから来たメサくんです。十一歳。冬に十二になります」
「けっこうちっ…小柄ですね」
ちっちゃいはさすがに失礼だろう。
上品な顔立ちの、ゴツクない力士が柔和に笑って、
「僕去年、もっとちっちゃかったですよ」
「メサ、レディにご挨拶」
老ハンサムが少年に促す。
「サダリホ」
「さ、さだりほ」
現地語には現地語で返す。
記者の基本。
すると柔和がやわらかく、
「返す方はさだるふです」
そなの?
「さだる…ふ…?」
メサがにこっと笑った…
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