1/3
前へ
/24ページ
次へ

 帰り道は足が重かった。  外人新弟子ったって、そんなの今じゃゴロゴロいる。  黒人力士も少ないけどいる…本格にいないだけだ。  だから士幌山親方はメサを、黒人初の本格力士にしたいのかもしれないけど、メサはそんなこと望んでない気がする。  一日も早くデビューしたいメサ。  取材の芯がつくれない。  あすは初日だ。  国技館、行ってみるしかないか…  初日から毎日通ううちに、どんより感はいや増してゆく。  場所中にもかかわらず、閑散とした館内。  取組もかったるい。  睨み合うのに水さされる。  手をつきかけて、やめる。  いったい何を待っている?  わからない、わからない…  その点強化系は…  第二国技館へ移動する。  満員御礼の垂れ幕。  どっさりの観衆。  応援は怒号のようだ。 「ハヤノテル! ハヤノテル!」 「ツシマシュウ!」  あの隼ノ輝がちょうど土俵上にいた。  津嶋海部屋のホープ、津嶋秀が相手だ。  傍で見た隼ノ輝はものすごい肉体だったけど、津嶋秀もものすごい。  ぶつかり合う肉体と肉体。  しかもそれが変形する。  がっぷり四つに組んでいるのに、津嶋秀の背からは今、二本の小腕がにゅううっと出てきて、隼ノ輝の首を締め付け始めた! 「ぐふっ」  落とされかけ、ふっと力が抜けたところで、足を払われ、隼ノ輝は膝をついた…  行司の軍配がさっと上がる。 「津嶋秀うううううっ」  どっと会場が湧く。  引き上げる隼ノ輝が、士幌山親方に伴われ、アタシの脇を通ってゆく。 「シュンテル惜しかったね」  通ってるうちに呼びならわした呼び方で激励したけど、シュンテルは怒りのこもった目でアタシを見返した。 「全然すよ。うちの部屋、バイオ改造御法度だから、あーゆー戦法で来られるとアウトっす」 「そういう問題じゃないって常々言ってるだろう」  親方が振り向いてシュンテルに厳しく言う。 「下半身を強くして、技を」 「そんなの本格のやつに言ってくださいよ。俺らには俺らの戦い方があるんだ。親方の時代とは違うんですよっ」  シュンテルは独りで、支度部屋に戻ってしまった。  親方はことばもなく、シュンテルの去った方を見送っている。  そこへ「わあっ」っと上がる歓声。  『第ニ土俵』での取組が始まったのだ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加