氷海鳴き

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氷海鳴き

 流氷は浮気者だと祖母が言っていた。  うんとしばれた厳冬、オホーツク海にやってくる氷の塊はぶつかり擦れてキイキイと悲鳴をあげる。流氷が鳴いている。耳馴染みのよい氷海鳴きを聞くたび私はこのまちに育てられたのだと再認識する。私も、祖母も。みんな流氷に育てられてきたのだ。浮気に育てられて、生きてきた。  その写真を見たのは私が五歳の頃、白とは程遠く緑濃い季節だった。 「これが新しい観光ポスターだって」  役所の前を通りがかったところで潤ちゃんが言った。  潤ちゃんはいとこだ。五つしか離れていないというのに振る舞いや口調はしっかりしていて、掲示板のポスターに向けられた涼やかな顔つきは、当時の私からすれば大人のようだった。 「ことしは、おじさんの写真をつかっているんでしょ?」 「うん。これは僕の父さんが撮ったものだね」  写真が採用されていることが誇らしかったのか、その目を糸のように細くしながら白い写真の隅から隅までをじっくりと眺めている。その瞳にきらめくものが見えてじいとみつめていると、私の視線に気づいたらしく、照れくさそうに微笑んだ。
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