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秋も深まった頃、祖母が認知症になってしまった。特に困ったのが徘徊癖だ。家を抜け出してしまうと自力で帰ってくることができず、外で迷子になってしまう。そのため昼間はまちの老人ホームに入れて、夜は家族が交代で見守ることになった。そんな状態の祖母に階段の上り下りをさせるのは不安がある。二階にあった祖母の部屋を一階に移すことが決まり、私は片付けのために祖母の部屋に入った。
祖父が家を出て、女手一人で子供たちを育ててきた祖母。他人に頼ることを嫌った性格は部屋にも表れていて、片付けはそこまで時間がかからなかった。
最後にたんすを動かそうとした時、裏にポスターが貼ってあることに気づいた。それは私が五歳の時の、おじさんが撮影した写真を使った観光ポスターだ。たんすの裏とはいえ年月が経っているため彩度は失われている。お世辞にもきれいと言えなくなったポスターを撫でながら私は瞼をおろした。
蘇る、流氷。おじさんの写真はやはり美しいのだ。色褪せてもこの写真を呼び水に流氷を思い浮かべることができるから。氷がぶつかり軋む音や肌に突き刺さる風。一枚の写真から冬の景色が蘇ってくる。おじさんはどんな思いでこの流氷を撮っていたのだろう。祖母は流氷を浮気者と呼んでいたけれど、おじさんはそんな風に思っていなかったのだろう。だっておじさんが撮った流氷は清らかで、汚れた単語の似合わないものだったから。
ファインダーを覗いて広大な景色から美しいもの選び抜く。シャッターを押すまでのわずかな間、息をすることも許されないような一瞬の緊張。潤ちゃんに写真を撮ってもらったから、私もその瞬間を知っているのだ。そういえば潤ちゃんも流氷の写真を撮りたがっていた。尊敬する父親に近づきたくて流氷に憧れていた潤ちゃんは、どんな風に流氷を写すのだろう。そこまで考えて、祖母の言葉を思い出した。
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