氷海鳴き

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***  それから数か月が経ち、海と空の境目から白線が迫る頃に祖母が亡くなった。死因は凍死だった。家族が寝静まった夜に家を抜け出し、帰り道のわからぬまま冬に連れ去られたのだ。見つかった時には防波堤の近くでうずくまるようにして冷たくなっていた。奔放な祖父が家を出て行った後ひとりで子供たちを育て、苦労ばかりしてきた祖母は悲惨な終わり方をしたのだ。  この訃報に親族たちが集まった。我が家に集まった親族たちの中には、潤ちゃんの姿もあった。 「この時期だから、来ないと思ってた」  私が言うと、高校の制服を着た潤ちゃんが微笑む。祖母の死があるためか、涼しげな目元は普段よりもしんと冷えていて、寂しげに潤んでいた。春が来れば大学生になる潤ちゃんにとってこの冬は大事な時期である。受験勉強で忙しいだろうと想像していたのだが、凛とした声がそれを否定した。 「合格したんだ。決まっていなかったら、さすがに来られなかったよ。」 「おめでとう。大学はどこ? 写真の勉強だから、やっぱり札幌かな。それなら私も遊びに行っちゃおうかな」 「そう、だね……札幌だったら」  歯切れ悪い返答が気になって見上げたけれど、潤ちゃんはそれ以上答えてくれなかった。  窓がかたかたと小刻みに揺れ、どうやら外は吹雪になっているらしい。夜も深まり、酔いつぶれた親族たちの寝息と窓に叩きつけられる雪音が聞こえる。居間で起きているのは私たちと、母や父といったわずかな大人たちのみ。あとは別室や居間の端で深い眠りに落ちていた。
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