氷海鳴き

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 夏の一時期だけ我が家は騒がしくなる。道内各地に散った親族たちが墓参りのために集まってくるのだ。墓参りを終えれば本家である我が家に集まって、ご馳走を食べたり酒を飲んだりと大騒ぎをする。私はこの時期が好きだった。それはいとこである潤ちゃんが訪ねてくるからである。  散歩を終えて家に戻った私たちは二階へあがった。自室に閉じこもり、晩ごはんができたと祖母が呼びにくるまで遊ぶのだ。 「何をして遊ぶ?」 「おにんぎょうさんごっこ」  大人になれば五歳の溝は浅く感じるものだが子供は違う。同じ着せ替え人形を持っているのに五歳と十歳は随分違っていて、その顔つきや手の大きさを意識してしまう。 「わたしがおかあさん役で、潤ちゃんはむすめ役ね」 「わかったよ」  潤ちゃんは理想の存在だった。ままごとや人形遊びで遊んでくれるほど優しく、外へ出かける時は手を繋いでくれる。ハキハキと喋るから大人たちにも可愛がられる。悪いところはひとつもない。憧れの兄のようで、絵本に出てくる王子様のようでもあった。性格だけではなく容姿も素晴らしかった。きりりと涼しげな黒い瞳が映える深く刻まれた二重の線に、瞼を伏せれば長々としたまつげ。濃い顔というほどではないが鼻筋が通っているため、横から見ても正面から見ても美しい顔つきである。男らしいというよりは儚げな美少年に近く、この年頃の子たちからすれば大人びた外見だったに違いない。この美しい人がいとこなのだと思うと誇らしい気持ちになった。私も、潤ちゃんがポスターを見ていた時と同じ表情をしているのだろう。
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