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親戚や潤ちゃんたちは、毎年夏にやってくる。私は潤ちゃんと会うたびに写真を撮ってもらうようになった。撮影者は潤ちゃん、被写体は私。そこで撮った写真は夏の終わりに、手紙と一緒に我が家に届く。その写真は部屋の中央で座っている私を写しただけの味気ない写真だったが、私にはきらめく一枚だった。潤ちゃんには、こんな風に私が見えているのだろうか。見慣れた自室の、あちこち塗装が剥がれたテーブルでさえ、美しいもののように思えてしまう。
一枚また一枚と写真が増えていくたび、私の顔つきや体から幼さが失われていく。
それは潤ちゃんも同じで、一枚また一枚と写真を撮っていくたび、ファインダーを覗く眼から青さが失われていった。
「本当は冬に来たかった」
夏に顔を合わすたび、潤ちゃんは残念そうに言っていた。
浜風が濃く香るまちを散歩しながら、海の方向をにらみつけている。高校生になった時に買ってもらった潤ちゃん用のカメラが首からぶらさがっていた。
「ここは流氷のまちだからね。流氷の写真を撮りたかった」
ふうん、と私は首を傾げた。まちの住人である私はそこまで流氷に関心がなく、反抗期が近づいていたのもあって、寒い中わざわざ流氷を見に行くなんてと思っていた。だが年に一度しかこのまちにくることができない潤ちゃんは違ったのだろう。父親が撮った流氷の写真がポスターに採用されたこともあり、その思い入れは私の予想を超えていた。見上げれば、瞳の奥に流氷への羨望が揺蕩っていて、潤ちゃんをそこまで惑わせる流氷に嫉妬しそうになる。
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