氷海鳴き

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「おじさんが流氷の写真を撮っていたから、潤ちゃんも撮りたいの?」 「変わり者でふらふらしている父さんだけど、あんなにきれいな流氷の写真を撮るんだ。父さんを尊敬しているよ。だからこそ僕も同じものを撮って、超えたい」  おじさんは確かに変わったところのある人だった。趣味としてはじめた写真撮影にのめりこみ、休みの日があればカメラ片手に道内を走り回っていた。風景写真はもちろん女性の写真を撮ることも好きなようで、部屋には道内の景色やそこで出会った女性たちの写真がずらりと貼られているらしい。私がそれを知っているのはおじさん自らが語っていたからだ。今回も、内地の女性は美しいだの雪国の女は肌が白くていいだのと上機嫌で話していた。普段ふらついているおじさんも夏だけは家族を連れてこのまちに帰ってくる。それは旅先で見つけたものや撮った写真を、兄弟や母に向けて自慢したかったのもあるだろう。 「父さんを、尊敬してる」  自分に言い聞かせるようにもう一度、潤ちゃんは低い声で呟いた。  おじさんの評判はあまりよくない。潤ちゃんにとっての母親、つまりおばさんを困らせてばかりいるからだ。出かけたと思えば知らない女性のところに泊まっていたり、酔いつぶれて知らない土地にいたり、とにかくおじさんは周りを振り回してばかりいる。奔放な性格はおじさんの父、つまり祖父に似たのかもしれない。  そんな人だとわかっていても潤ちゃんが尊敬する理由はひとつ。あの写真。海を覆い隠すように、悪い要素を覆い隠す流氷の写真なのだ。
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