氷海鳴き

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「もしかして、潤ちゃんの夢は写真家? おじさんを超えるスーパーカメラマン?」  私が聞くと潤ちゃんは頷いた。まっすぐ前を向いて悩むことなく「なりたい」と答える。 「父さんは趣味としてだけど、僕は違う。ちゃんと学校に行って、基礎から写真のことを学びたいんだ」 「そっか。じゃあ今度から写真を撮ってもらう時、お金を払わなくちゃ」  からかうと潤ちゃんは困ったように笑って、愛用のカメラを優しく撫でた。  潤ちゃんの手はカメラに、私の手はポケットに突っ込んでそのまま。年月が経つにつれて、手を繋ぐことはなくなっていた。それは私たちが大人に近づいていった証拠でもあり、私の胸中を占める感情が大きくなっていたことを示すものでもあった。 「ねえ、潤ちゃん」  ポケットの中に隠した手がべっとりと汗をかいている。外に出せば涼しさを感じるのだろうが、わずかな勇気を握りしめたこの姿を見られるのは恥ずかしかった。 「私を置いていかないで」 「そう言われても、明日には帰るよ」 「それはいいの、大人になったらの話だから。ねえ、私と一緒にこのまちにいて。そうしたら潤ちゃんが好きな流氷だって、毎年見られるよ」  告白ではないのに、写真を撮られる時と同じように緊張していた。潤ちゃんがどんな顔をしているのか確かめるのがこわくて、私も海の方を見やる。夏の海。浜辺にいるわけではないのに、波音が聞こえているような気がした。 「あのさ、」  じり、と足音が近づいた。 「僕は蟹だと思うんだ。時期がくるまでふくふく育っていく蟹」 「え?」 「流氷がいなくなったら、このまちは実りの時期になる。海や蟹のいちばん輝く時期がくるんだ。流氷によっておいしく育てられた僕も輝く時期がくる。夢を追いかけにいく、だから――」
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