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「ああ、うちの料理人自慢の点心だ。親父さんにも気に入ってもらえるといいんだが」
「や、そりゃもちろん。さっきのもすげえ旨かったし! けど、何だか……すまねえな。いろいろ気を遣ってもらっちゃって……さ」
「構わねえさ。今日はお前を一人占めさせてもらった詫びも込めて……な?」
細められた瞳がそこはかとなくやさしくて、何度でも頬が染まってしまいそうだ。ガラにもなくモジモジとしてしまい、紫月はしどろもどろに視線を泳がせていた。
「ぼちぼち行くか。源さんの車で送っていくぜ」
「あ、うん……さんきゅな」
◇ ◇ ◇
その後、鐘崎も同乗して”源さん”の車で自宅前まで送ってもらった。
紫月にしてみれば、当然茶の一杯くらいは――と思っていたのだが、二人は家には上がらずに帰って行ってしまった。もう遅い時刻だし、遠慮もあったのだろう。
驚いたのは紫月の父親である。
目を見張るような美しい盛り付けの、まるで一流飯店やホテルで出てくるような豪華な点心の差し入れに、紫月によく似た面差しの大きな瞳をグリグリとさせながら絶句状態だ。
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