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「さあ、そろそろシャワーでも浴びて支度するか。お前の親父さんも心配してるといけねえしな?」
今一度、長い指先でやさしく髪を梳きながら鐘崎は言った。
「あ……そうだな、忘れてた。今、何時なんだ?」
「もう九時になる。ここは地下だから時間が分からねえのが玉に傷なんだ」
チュッっと額に軽いキスを落としながらそう言う鐘崎に、再び頬が染まる。
「そっか……もうそんな時間……。親父の方も道場の稽古が終わって、ひとっ風呂浴びてる頃だな」
名残惜しい気持ちを飲み込んで、紫月はゆっくりとベッドの上で上半身を起こしながら、
「――ヤベ! そういえば晩飯の買い物すんの忘れてた!」
突如、すっとんきょうな声を上げた。
隔日で夕刻から小中学生の部の稽古がある日には、父に代わって買い物をして帰るのが紫月の役割でもあるのだ。今日はまさにその日だったのをすっかり忘れていた。
この時分だと開いているスーパーも限られてくる時間帯だ。少々焦る紫月の横で、またひとたび鐘崎が余裕の様子で微笑んだ。
「大丈夫。親父さんへの土産にと思って点心を用意してあるんだ」
「え!? マジ?」
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