強がり

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「あ……悪い。実は俺、まだ教科書が揃っていなくて……迷惑を掛けて済まないが一緒に見せてくれないだろうか」  生真面目な顔つきでそんなことを言われて、ますます驚いたように硬直してしまった。  少し申し訳なさそうにしながらもじっと見つめてくる真っ直ぐな視線に、急激に心拍数の上がるのをはっきりと感じる。  『どうぞ』とも『いいぜ』とも返せないままにしばし視線が絡み合う。  珍しい濃灰色の瞳はそれだけでドキッとさせられる魅力を充分に含んでいて、思わず見とれさせられてしまうくらいにとても綺麗だ。  ふと、昨夜の怠惰な情事に身を任せた投げやりな自分が思い浮かんで、後悔の念が脳裏をかすめた。 「いいよ、どーせ俺にゃ必要ねえようなモンだし……貸してやるよ」  バクバクと速まる心拍数を隠したいというのも勿論あったが、だらしのない自分に対する後悔の念を拭いたいとでもいうように、紫月はわざとつっけんどんに隣の男へと教科書を差し出してみせた。冷たく強がったそんな態度をとることでしか、今の自分の嫌なところを取り繕うことができなかったのだ。  だがそんな思惑に反して、転入生の男は『めっそうもない』といった調子で、いきなり机をくっ付けてよこした。
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