強がり

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 確かに、少々やり過ぎた感に苦笑せざるを得ない。だが、ああするしか方法が思い浮かばなかった。  今後、鐘崎という男と行動を共にすることが多くなるにつれ、何も知らない彼が、きっと先刻の授業の時のように親しげに接してくるだろうことは容易に想像できる。その好意的な態度に自らの気持ちが翻弄されるだろうこともしかりだ。  だから遠ざけたかった。  彼との間に距離を置きたかった。  少々ドギツかろうが、警告の意味をも込めてあの男を自分から引き離すには、ああするしかなかったのだ。  彼に魅かれて嵌って、挙句そんな気持ちがバレて気まずい思いに泥沼化していく――そんなふうになるのなら、今の内に呆れられるか引かれるか、あるいはとっとと嫌われてしまった方が楽だからだ。  まあこんなことを思う自体がもう手遅れということだろうか、 「なあ剛ちゃんさー、確かに……イカれてんわ俺……!」  つか、終わってる――  少し低くドスのきいたような声でそう言った。 「おい……紫月?」  横柄な態度とは裏腹に、紫月の横顔が何故だかひどく苦しげに歪んでいる。彼と並んで歩きながら、剛は不思議そうに首を傾げたのだった。
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