夫婦刀に秘められた謎

2/14
1644人が本棚に入れています
本棚に追加
/722ページ
 だがまあ、そうはいえども教室に入れば否が応でも席は隣同士、どんなに接触を避けようとしてもやはりひと言の会話もしないというわけにはいかない。加えて未だに教科書の揃っていない彼に、机をつっく付けて見せてやらなければならない状況にも変わりはなく、意に反して案外疲労させられる毎日だったというのも実のところだ。  こっちの気も知らねえでお気楽なもんだよなーと、横目にチラ見する彼の視線は相変わらずで、生真面目そうに黒板を見つめていることが多い。先日、あれだけの毒舌を放ったにも関わらずまったく気にしていないのか、こちらを警戒する素振りも皆無のようだ。  まあ、直接『男とセックスをしてきた』と言ったわけじゃなし、あの程度の言い方でははっきりとした意味が理解出来なかったのか。あるいは意味は通じていてもほんの冗談と受け取られたのかは知らないが、とにかく相当イキがって毒舌をぶちまけたつもりのはずが全くの効果なしといった様子に、癪な気持ちと安堵の気持ちが交叉する。  彼の変わらない態度に心のどこかでホッとしていたりするのに気がつけば、そちらの方が気重だというようにして、紫月は溜息の絶えない調子でいた。
/722ページ

最初のコメントを投稿しよう!