強がり

1/14
1641人が本棚に入れています
本棚に追加
/722ページ

強がり

 次の日、紫月は大幅に遅刻をして登校した。  あと一科目で昼休みという時分にふらりと出向けば、「最上級生という大事な時期に何をやっているんだ」と担任から小言を食らう。  だが、半ば無気力で格別に望んだわけでもない昨夜の情事のせいでか、ダルさは抜けず言い訳も謝罪のひと言さえかったるい。そんな様子に担任は呆れ返って大袈裟な溜息まじりで、お手上げとばかりのゼスチャーを繰り返した。  親友の剛や京らも「おいおい」といった調子でニヤケながらも、しょーもねえなとからかい半分の視線を飛ばす。  チラリと上目使いに窺った自らの席の隣には、お約束とばかりに例の転入生の男が行儀のよく物静かに座っているのが目について、紫月はますます気だるそうに大きな溜息をついてみせた。  何故だろう、彼を目にした瞬間から説明のつかない奇妙な感情に支配される――  まったくもって気が重いといった調子で、わざと彼を避けるように視線も合わさずにドカリと自らの席へと腰を下ろした。その時だ。 「あの、済まないが次の授業の教科書を見せてくれないか?」  予想だにしない問い掛けに、ギョッとしたように真横を振り返った。
/722ページ

最初のコメントを投稿しよう!