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重装備がその性能を発揮し、藪を掻き分けて進む事に大きな問題は無かった。
ただ、小さな問題として、慣れない行動によって思いの外に体力を消費していた。その事に気付き、だいぶ山中へと踏み入った頃に足を止め、少し落ち着く事に。
目に付いた倒木に腰掛け、背負っていたバックパックを地面に降ろす。そうして呼吸を整えていると、小鳥の囀りや風に揺れる枝葉の音が実に心地良い。
水筒を取り出し、冷たい紅茶で喉を潤す。元はペットボトル入りの安物だが、こうして緑に囲まれて飲むそれは、実に甘露であった。浴びる様な自然に浸るこの一時は、都会の日々で蟠っていた何かが洗い流してくれるようだった。
知らず滲んでいた汗をタオルで拭い、立ち上がる。
こうして憩うだけの行為ですらも素晴らしいが、今日の目的は山菜だ。採れたての山菜を肴に一杯やるのだ。それはきっと、さらに素晴らしいに違い無い。
そのために、俺は山の幸を求めて歩き出した。
慣れない山道にも負けず、懸命に進んでいた俺の脳裏に、ふと疑問が過ぎったのは、それからしばらく経ってのこと。
山菜を探して歩き回ってはいるが、ではその山菜はどこにあるのか。そもそも山菜とその他の違いとは何か。そんな根本的で致命的な疑問だった。この時に俺は、ようやく自分に菜採りのノウハウが欠片も無かったのに気が付いたのだった。
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