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誰かに聞こうにも、いまさらと言う思いもある。けれど背に腹はかえられぬと、辺りを見回し人を探すが、誰も見当たらない。
当然だ。俺は、他の参加者から離れるようにして山へと入ってきたのだから。
不意に背筋が冷たいものが走った。それは不安という名の恐怖である。
土地鑑の無い山の中。独りきり。遭難。ネガティブな考えが次々に浮かぶ。
遠くの薮がガサリと音を立て、身体がビクりと怖張った。
動物。野生。牙。捕食。餌。誰が? 俺だ。俺が獣に食い殺され――ッ!
「うあああああ!」
気付けば俺は、叫びながら駆け出していた。
木々を避け、藪を突っ切り、走った。
唯一剥き出しの顔に、細かな傷がつき。その些細な筈の痛みにすら怯えて、叫び続け、走り続けた。
そうしなければ、漠然とした恐怖に潰されてしまいそうだったのだ。
それはパニックホラーを題材にした映画やドラマなどでよく見る、『序盤で死ぬ』登場人物の行動そのままだ。
そんな行動をすれば、どうなるか。部屋でテレビを見ながら「バカだなぁ」とせせら笑っていた俺は、当然理解している。何も解決せずに、むしろ状況を悪化させるだけだと。
けれど、この時の俺には、そんな事は少しも思い浮かばず、ただただ『逃げる』の一事しか頭には無かった。『どこへ』も『なにから』も無かったのだ。
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