鎮魂歌-レクイエム-

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 どれだけの時間が経っただろうか。目覚めた少女は目の前に一軒の教会があることに気付いた。 「『鎮魂歌』?」  近付いてみると店の表札らしきものが掲げてある。そして確かにそこには『鎮魂歌』と記されていた。  少女はぐるりと教会を眺めた。細長い、円錐状(えんすいじょう)の建物。屋根は尖り、先には十字架が見える。教会の周りは蔦で一面覆われており、お世辞にも綺麗とは言い難い。怪しい雰囲気を醸し出すには充分だ。どうやら山の教会をそのまま何かの店として使っているようだ。  少女はしばらくそれをじっと眺めていたが、意を決して中に入る事にした。   ギギギ…  錆び付いた音を響かせ、重い観音開きの扉を押し開ける。中は暗く、クーラーがついているわけでもないのにひやりと涼しい。中には沢山の本棚がひしめき合い、教会の面影を残しているのは正面にあるキリストの張り付けにされた絵と壁にかかる大きな十字架だけだった。  少女はゆっくりと吸い寄せられるようにそのキリストの絵へと向かい、目の前にでひざまずき手を組んだ。瞳を閉じ、ゆっくりと祈りを捧げる。 「どうして貴方は、いちばん苦しくて痛々しい姿を、私たちに見せているのですか?貴方はそれで良かったんですか?」 「おやおや。今日はまた随分と若いお客様ですね」  突然かけられた声にびくっとして、少女は声のした方へと顔を向けた。しかし薄暗くて何も見えない。よく目をこらして見ると本棚の陰から背の高い一人の男が現れた。 「ようこそ。私のお店、『レクイエム』へ」  優しく微笑む男は黒く短い真っすぐな髪に教会に似合うタキシードという出で立ちだ。  少女は彼の発した言葉にふと疑問を抱き声を発した。 「レクイエム?」 「鎮魂歌、と言う意味ですよ」  彼は少女の問いにさらりと答えるとゆっくりと少女へ近付き、 「オーナーの慧です」 「ケイさん?」
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