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物憂げな女性が、湖の畔に座っていた。その視線は、水面に注がれている。
顔を傾けているせいか、長く伸ばした髪が地面へと向かって、流れていた。
傍から見れば、何の変哲もない湖を、女性が見つめ続けるには訳がある。
湖面には「映し鏡」の魔法をかけてあり、自分が望む風景を水面に映しているのだ。
そこに映っているのは、一人の男性であった。
「ネオン」──誰もいないはずの場所から、自分の名を呼ばれた気がして、湖から意識を切り離す。
すると、よく知った相手の声が聞こえてくることに気づいた。
落ち着いていて、やや低めの男性の声であった。
「そろそろ帰ってきたらどうだ?」
ネオンは、その声が聞こえた方向に意識を向けるが、そこには何もいない。キラキラと舞う光の粒子が存在しているだけであった。
それが伝達用の魔術だと知っているネオンは、視線を光の粒子へと向けた。
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