通り雨と女

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通り雨と女

 その付近を歩くと、必ず通り雨に降られる。  でも俺は、決してどこかの軒先には入らない。濡れても構わないからそのまま目的地へ向かうんだ。  そうするようになったのには理由がある。  ここいらで初めて通り雨に降られたのは、もう一年近く前だ。  あの時も突然の雨に降られ、俺は駆け込めそうなコンビニなりスーパーなりを探した。けれど付近に店らしきものはなく、仕方なしに、近くの民家の軒先で雨宿りをしたんだ。  空はそこそこ明るいから、もう少し待てば雨はやむだろう。そんなことを考えていたら同じ軒下に女が飛び込んできた。  他に雨を凌げそうな場所がないから、狭くてもここに避難するしかなかったのだろう。  別段会話もなく、お互いに黙って雨が止むのを待ち続ける。すると、女が急に俺に体を寄せてきた。  雨脚が強まった訳でも、風が出てきて軒下に雨が降り込むようになった訳でもない。なのに女はこちらへぐいぐい体を寄せてくる。その体が、雨に濡れたせいとはいえやけに冷たくて、俺は必死に女から遠ざかった。それでも女は寄ってくるから、いい加減イライラして、俺は女に何の真似だと叫んだ。  女が俺を見上げる。その顔は白を通り越して青く、唇は紫色で、雨が降っているとはいえもう季節は春なのに、何故かはっきりと、真冬のような白い呼吸が見て取れた。 「寒い。寒い。寒いの…」
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