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ガタガタと震えながら近寄って来る女がたまらなく不気味で、俺は軒先に留まれず、まだ止まない雨の下へ駆け出した。
今の女は何だったんだ? 具合でも悪かったのか? だとしても様子がおかしすぎるだろう。
妙な女と関わってしまった。だがしょせん、通り雨で雨宿りをしただけの見ず知らずの相手だ。もう二度と関わり合うことはないだろう。
そう思っていたのに、後日、用事でたまたまその付近に足を向けたら、また通り雨に降られ、雨宿りの軒先で俺はその女とまた会ったのだ。
相変わらずガタガタ震えながら、寒い寒いと近寄って来る。それが不気味で、俺はまた降り続く雨の中に逃げた。
そして三度目の通り雨に遭った際、俺は女が軒下に飛び込んで来ると同時に雨の中へ駆け出していた。
以来、その付近を通って通り雨に降られても、俺は決して雨宿りをしようとは思わなくなった。
あの女が何ものなのかは判らない。もしかしたらこの世のものではなくて、雨もあの女が降らせているのかもしれない。
だから余計に、あの辺りを通った時、雨に降られてももう雨宿りはしたくないのだ。
あの女の青い顔や紫色の唇、押しつけられた腕の冷たさに白い呼吸。それらを思い出すだけでたまらなく全身が寒くなる。そんな凍えた感覚を味わうくらいなら、季節がどうあれ雨に打たれた方がマシだからな。
通り雨と女…完
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