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狼少女・真清田博子が愛国婦人会本部ビルの地下牢で高笑いをしているのと同じ頃。
神保町から九段下へ と続くゆるやかな坂道を、少々風変わりな男女が歩いていた。
男は陸軍の将官。もうひとりはスーツ姿をした欧米人の女性。
この帝都にあっては、軍の高級将校が海外からの賓客に観光案内をしているといった場面は、しばしば目にするところで、それ自体は、さして珍しいことではない。
風変わりなのは、前に立って歩いている軍人が、将官にしては、あまりに若すぎること、そして、目深にかぶった制帽のしたに見える目が、片方、黒い眼帯で覆われて、何か不気味な雰囲気をかもしていること。そして一歩遅れて歩く金髪碧眼の美女は、それこそ雪のように白い肌で、驚くほど美しい容姿であることだろう。
しかも、良く見ると、おかしなことが、もうひとつある。
それは、この蒸し暑いのに美女も将官も少しの汗もかいていないことだった。
やがて俎板橋の上までくると、軍人の男は足を止め、片目だけを動かして周囲に人目がないことを確認し、両腕を欄干にもたれ、まるで他愛もない世間話でもするかのように隣の美女に語りかけた。
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