夜叉姫誕生━━━━序章━━━━

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 『私』を『あたし』と発音する、ひどく粗野で、だが良く通る綺麗な声も気味が悪い。  そのせいか、鉄格子の外で彼女を見張る下級憲兵と陸軍の高級将校たちは、美しい少女の裸体を目前に、男の性欲を刺激されるどころか、吼え狂う野性の虎を囲う檻の前にいるような恐怖すら感じていた。 「……まったく、とんでもないガキを生け捕りにしたものだ。なあ、岩畔(いわくろ)中佐。これなら素直に殺したほうが良いのじゃないか?」  大佐の階級章に参謀の金モールをつけた壮年将校は苦々しげに呟きながら、くわえた煙草に火を付けた。 「お説は正論ですが、高級参謀殿。そうも参りません。そも、殺すつもりで戦わせた私の兵たちが返り討ちにあって全員が陸軍病院に入院中。そんな苦労をして捕らえた、あの『狼少女』を殺してしまっては大事な研究材料が無駄になる。生け捕りに出来たのは偶然の賜物。ここは有効な利用法を考えなくてはなりません」 もうひとりの将校も苦笑いで答えはしたが、その目は笑っていない。
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