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「……もっとも、殺してしまった方が安全だというのは、自分も思いますが。あの、蟠(ばん)少将閣下が、どうしても譲って欲しいと仰るのです」
「蟠侯爵が……か。なら仕方がないが、蟠閣下は、あんなケダモノを、どうやって手なずけるおつもりなのか? 私にはどうにも無理に思えるのだがね」
煙草をくわえた将校が肩をすくめると、また、少女の声が響いた。
「嫌あああああっ!? ここはどこですかっ? どうしてあたしは裸で捕まっているのですか!? お願いです! 助けて下さい! 警察を呼んで……ううん! お母様とお父様に会わせてええええっ!」
突然に可愛い声で泣き叫ぶ少女に歩哨の下級憲兵の肩がブルリと震える。
だが岩畔と呼ばれた中佐は、そんな歩哨兵の肩に手を載せニヤリと苦笑しながら冷静な声で告げた。
「……騙されるなよ、伍長。あれは芝居だ。……多分、次は『腹が痛い』だの『水をくれ』だの言い出すはずだ。そこで気を許して奴の片腕の縄ひとつでも解いてみろ。貴様はものの一分で靖国の森行きだぞ」
その恐ろしい言葉に、もうひとりの将校も頷き、こう付け加えた。
「その通り。あの娘は普通の餓鬼じゃない。特別訓練を受けた岩畔中佐の衛兵を七名、たったひとりで全滅させた人間の姿をした猛獣なんだ。間違っても単独で近づくな。それから――」
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