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憲兵が磔にされた博子の裸体を見遣り、その視線を下腹部から小さな胸へ、そして、顔へと移動させた時、彼の小銃を持つ手が思わず震え、額に冷や汗が滲んだ。
彼女。博子は世にも嬉しそうに、それでいて恐ろしく意地悪そうに、笑っていた。
「うふふふふふふ! ちょっと、伍長サン。ううん、お・兄・ち・ゃ・ん。あたしの身体、気になるのぉ? だったら、こっちに来て。いけないコトして遊ぼうヨォ? 偉い人に内緒で、すっごく良いコト教えてあげるからぁ」
「……ふっ、ふざけるな!」
怒鳴ってはみたものの、下級憲兵の心臓は早鐘のように高鳴った。
その場を立ち去るとき、上官の高級将校は『くれぐれも騙されないよう気をつけろ』……と、しつっこいほどに念を押していった。
だが、あんな身長五尺に足らない、それに裸で磔にされている少女に何が出来ようか?
恐ろしい鬼娘というのは、若い自分を戒めるための大袈裟な脅しかもしれないではないか。軍隊の男所帯で若い女と言えば、ピー屋(公営遊郭)のスレた遊女ぐらいしか知らない下級憲兵にとって、全裸の少女の笑顔と、磔にされて身動き出来ないという刺激的な状況は冷静な判断を鈍らせた。
――……ほんのちょっと近くで見るだけだ。幸い、今は俺ひとりだし……。うん! そうだ、近くで見るだけだ! ヨシ!
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