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両親と暮らした家を売り払った私は、東京から船で少し離れたところにある島の小さな一軒家を買った。周囲の人には両親と暮らした家に一人でいるのは辛いから、というと反対する人は誰もいなかった。……もっとも、反対したり別れを惜しんでくれるような人なんていなかったのだけれど――。
「……いなかった、よね」
思い出そうとすると頭にもやがかかったようになる。寝不足だろうか、今日はいつにも増して頭がボーっとする。
コーヒーでも入れて目を覚まそうか……。そう思ってキッチンへと向かおうとした瞬間、チャイムの音が部屋に響いた。
PCに貼られた付箋に来客の予定は書いていない。と、いうことは……予定の時間よりは少し早いけれど、新しい担当さんが来たのだろうか。
はーい、と返事をしながらドアを開けた私の目の前に一人の男性が立っていた。
「っ……」
「あの……?」
一瞬、その男性が泣きそうに見えた。けれど、私の声に慌てたようにすみませんと頭を掻いた。
そして――。
「はじめまして。僕は――あなたが大好きです」
優しげに笑うと、彼は私にそう言った。
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