はじめまして、僕はあなたが大好きです

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◇◆◇  カチカチと時計の音が聞こえる。どれぐらいの時間が経ったかはわからないけれど、音が聞こえだしたということは集中力が途切れてきた証拠だ。  そろそろ休憩しようかな……そう思ってPCから視線を外し伸びをすると――どうぞ、と声がした。 「え……?」 「よければこれ飲んでくださいね」  そう言って机の上に置かれたのは、最近気に入って飲んでいるカフェオレだった。 「あ、りがとう……ございます」  偶然だと分かっている。たまたま買ってきてくれたのが、たまたま私が好きなものだった。ただそれだけ――。  なのに、朝から頭を覆うもやと、大沼さんを見ていると……何故だか胸がざわめく。  今だってそうだ。ただソファーに座っているだけだというのにまるでいつもそこにいるかのような自然さを感じる。  まるで何回もそこにいるのを見たことがあるような――。  そんなわけないのに。そんなことあるわけないのに。 「疲れているのかな……」  カフェオレに口を付けると、甘さとほろ苦さが広がる。 「……美味しいですか?」 「え……?」 「それ、美味しいですか?」 「あ、はい」  頷く私を、大沼さんは満足そうに見ている。でも、どうしてそんなことを聞くんだろう。持ってきてくれたのはほかならぬ大沼さん本人なのに……。 「大沼さんはブラックなんですか?」 「そうなんです、僕は甘いのが少し苦手で」  そう言って笑うけれど……じゃあ、どうして。 「どうして、これを?」 「え?」 「や、その……私はこれ好きなんですけど、どうしてこれを持ってきてくれたのかなって思いまして」  普通はコーヒーとか、カフェオレを選ぶにしても普通のを買うんじゃないだろうか。  こんな、牛乳が90%の甘党向けカフェオレをわざわざチョイスするだろうか……。 「……聞いたんです」 「聞いた?」 「はい、前任者から」  そうだったのか。そんなところまで引継ぎをしてくれていたなんて……。  もう誰が前任者だったのか、私にはわからないけれど――きっと、そんな人だったからこそ、私の中から消えてしまったんだろう。 「そうですか」 「はい」  それ以上はお互い、何も言わなかった。  ただ静かに、時間だけが流れていった。
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