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 間もなく停車駅に着くことをアナウンスする電車内。私はまるで彼を試すように質問を投げかけた。 「嫌ですか?」 「え?」 「あなたの優しい瞳に救われました」  見ず知らずの他人に優しい心を見せるなんて、なかなか出来ないこと。瑛人や留菜にはなかった。 「あなたに会うことを楽しみにしていたんです」 「……僕もです」 「生きる意味をくれたのはあなたでした。だから、一度話してみたいと思っていました」  本当は声をかけられた時にわかった。いつも見ていた彼だと、気づいていたのにそう言わなかった。  そうじゃない。  私は彼と話をしたくて、ネックレスを壊して落とした。 「諦めているみたいだったから」 「私がですか?」 「心配だったんです」  そんなに落ち込んだ顔をしていたんだろうか。私はなくしたものを探して、ただ立っていただけ。  駅のホームには何もなかった。  見つかるはずがなかったんだ。  私はあなたの瞳に惹かれて電車に乗り、わざと落としたネックレスで心に触れた。  私のなくした感情をあなたが拾ってくれた。
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