第1章

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マンションのエレベーターの扉が開くのを 今か今かと待ち続ける少女。ルリは今日はお出かけ出来る日であることを知っていた。昨日、両親がリビング内で明日の外出について話し合う声が聞こえていたからだ。よく、母からは体が弱いから、あまり外に出ては駄目だと言付けられていた。しかし、今日は特別に母と一緒に近くのデパートに歩いて出かけることになっている。  昨日の夜から、その話が聞こえた瞬間、ルリの鼓動が高鳴り、今日の朝まではよく眠れなかった。エレベーターの前で一緒に手を繋ぎ、娘の顔を伺う母の顔色が悪い。  「ルリちゃん。具合悪そうだけど、大丈夫?無理はしてない?」  「大丈夫!昨日もしっかり寝れたもん」  「そう......本当に具合悪くなったら、ママに言うのよ」  「うん!」  エレベーターの扉が軽快な音を立てて、両側に開いた。二人ともエレベーター内に歩いて入っていく。一階の四角いボタンを押し、 エレベーターの閉じるボタンを押す。一定の速さで下降し、目的の一階に到着する。その瞬間、ルリは待ちきれず、母の手を振り払い 扉が開くと同時にデパートの方角まで走っていく。  「こら!待ちなさい!ルリ!」  背後から、母の大声が響く。聴覚の良いルリにとっては、騒音にも等しい声だ。仕方がないと思い、すぐに足をとめる。すぐにルリに追いついた母は、ルリの頭を軽く叩いた。  「いつも言ってるでしょ。一人では危ないから、走らないことって。次、約束破ったら お菓子買ってあげないよ」  「えー」  口をとがらせて抗議の声を上げるルリ。母はよくルリの体について理解している為、少しでも手を離そうものなら、いつもすぐに追い付いて、今みたいに説教をする。ルリはまだ体を動かしたがる十歳である為、無理もないが。  しっかりと手を繋がれ、デパートへと続く歩道を歩いて行く。蝉の鳴き声が両耳にどんどん入り込み、不快極まりない季節。歩くたびに、汗がうっすらと滲み出してくる。母は 時折休憩と言って、タオルで娘の顔を拭いてあげたり、水分摂取を行っていた。ルリの大好きなオレンジジュースを持参することを忘れていない。ルリはオレンジジュース特有の色と味が好きだからだ。オレンジの明るい色。さらに、口に含む度に甘酸っぱい味が口一杯に広がる。飲む度に元気が出てくる。そんな気がするのだ。  休憩していたベンチから、母は立ち上がりルリの手を引く。
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