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奇怪な音が周囲にこだまする。あまりの音量に、引いていた両手をひっこめてしまう程だ。ドアは先ほどよりも、子供一人なら、身体を横に向ければ、たやすく入り込めるまで開いていた。高鳴る鼓動を抑え、ドアの隙間から内部へと侵入する。室内は、自分の背丈程や、見上げないといけない身長の物。、様々な角度に手足を曲げた人形のような物がたくさんぼやけて見える。全て、同じ肌色をしていた為、幼い自分でも、これらはマネキンと呼ばれる物だとすぐに理解出来た。ぼやける視界を眼を細めることで、少しでもよく見えるようにする。
ふと、物音に気付く。
ぎぃ......ぎぃ......
まるでドアを何度もゆっくりと開け閉めしているような、断続的かつ不愉快な音がマネキンのひしめく室内の奥のほうから聞こえる。
ルリは自分の両手が汗でぬめっていることを自覚する。怖い。ただ、その恐怖心だけが幼い子供の心を支配する。しかし、音を聞いた以上、対象となる音の発生源についても、
知りたいという欲求もある。欲求にうち負け、
マネキンに見守られているかのように、間を縫って、奥へと進む。
ぎぃ......ぎぃ......ぎぃ......
近づくにつれ、次第に音は大きくなってくる。自分の鼓動は外にまで聞こえるのではと思えるほど高まってゆく。そして、
「え」
間の抜けた声を上げた。尻餅もついてしまった。今、自分の目の前には、天井から垂れている輪っかのロープのような物に頭を突っ込み、ぶら下っている人物の姿。
初めはマネキンがぶら下っているものと考えていた。これは違う。床に滴り落ちていく体液。鼻腔に満ちてくる腐ったにおい。
「きゃああああ!おかあさ.......」
ぎしっ!
ルリの声は最後まで続かなかった。後ろからゆっくりと忍び寄る影に全く気付けなかった。
ルリの首が縄のような物で絞められていく。
必死に両手を使い、自分の首に食い込む縄を取ろうともがく。しかし、より一層強く締め付けられると、口から唾液を垂らし、意識を手放した。
荒い呼吸を上げる男が一人。マネキンの倉庫内に佇んでいた。すぐに我に返り、予定よりも多く殺してしまったことを悔やみながら、
倉庫から逃げ出した。
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