ねぇ、父さん

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 対面のパイプ椅子に座るのはいいがまだ踊っている。両手を蛍光灯に向けて海にたゆたう海藻のようにユラユラユラユラ。 「来ないよ」  男はビー玉のような目をむけている。口も開きっぱなし。 「なんで?」  と首をかしげる。 「来るわけないだろ」 「どうして?」  抜け殻を置いてここから立ち去りたい。でも、僕にはやらなくてはいけないことがある。 「どうして黙ってんだよ」 「それは……」  大きな輪を描くように両手を叩いて笑い出した。この先、なにが起ころうとそうやって笑っているんだろうな。子供の頃から思い出はいつも歯茎まで見える大爆笑だ。 「涙と鼻水一気に噴き出してやんの!」  指をさされた。  備え付けのテッシュを複数枚とって鼻をかんだ。視線を感じる。 「……たのか」  僕は声を絞り出す。 「ん?」  お人形さんのように首をかしげている。ダメだ、きつい口調になってはいけない。 「殺してしまったの?」 「え?」  まだおちゃらけるのか。 「父さんが……」  それを本人の口から言わせるために震える足でここまで来たんだ。 「なにかつらいことでもあったのか? お前いつもとちがくない?」  つらいことならたった今だ。真っ赤な目をバカにしたければすればいい。覚悟の上で顔を上げた。 「父さん、どうして殺したの」     
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