ねぇ、父さん

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 刑務官の手が止まって静寂。僕から目をそらして糸の切れたお人形のようにうなだれてしまった。 「ねぇ」  優しく声をかけたらバネの跳ね返りのように椅子から立ち上がった。「びよよ~~ん」とか自ら言ってたかもしれない。 「バカかバカか、お前はバカか? お前のお父さんはそこまでバカか?」  うなずきそうになるのをなんとかこらえる。 「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ」  アクリル板に顔を押し付けてきた。 「お父さんはな」  僕はうなずいてみせた。 「お父さんはな」  何度かお父さんはなを繰り返した。たいしたことは考えてないだろう。 「お父さんはな、間違ったことは決してしてなーい!」  椅子を倒して両手をあげてクルクルまわりまじめたところで「次騒いだら面会を終了する」と言われた。  アクリル板の向こう側を映画でも見るような気分で見つめながら、どこまでもこの男はこんなだった。と最終的な感想が溢れる。  僕は袖で涙の粒をぬぐった。 「なら、僕も一回しか言わないからよく聞いて」  おとなしく座り直した向こう側。両手を耳に当てている。よく聞こえるようにだろう。 「裁判でおちゃらけるのもうやめて欲しい。本当のことちゃんと話して罪を認めて」  唇を突き出している。なんでそうなんだよ。不機嫌になりたいのはお前じゃないんだよ。     
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