ねぇ、父さん

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「父さん、僕待ってるから。早く裁判終わらせようよ。そうすれば早く罪も償えるんだよ」  腕を組んで「う~ん」と言っている。  深く息を吸い込んで吐き出しながら僕は言う。 「僕、また父さんと山手線グルグルしたいんだ」  しばらくの沈黙のあと、父さんの涙腺が決壊した。アクリル板をぐしょぐしょに濡らしていく。 「お前がそこまでお父さんのことを思っててくれてたなんて。わかった、わかったよ! お父さん全部認める! 本当のこと話す! お前と山手線グルグルするために罪償う!」  僕は何度もうなずいた。父さんのこんな嬉しそうな顔は……しょっちゅう見てたな。  刑務官が「時間です」と言った。 「待ってるから……か」  外は日差しがまぶしかった。 「山手線グルグル、覚えてないよそんなの」  ミユキの台本通りにしたらうまくいった。いい子のフリは気が重かったけど、肩の荷がおりたと思う。  駅までつづく銀杏並木。 「ねぇ、父さん。本当のこと話して罪償ってくれよな」  立ち止まり、振り返る。 「5人殺したんだから」  コンクリートの高い壁に見下ろされている。                        〈完〉       
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