棒倒し

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 カタン。  右。  スッと体の向きを変え、僕は右に進む。  両側を白い塀に挟まれた、それ以外はなにもない道を僕は進んでいる。  今度は十字路だ。  その中央で、再び僕は右手に持った棒切れを地面に立てた。  カタン。  今度は左。  僕は左に向きを変え、迷わずその道を進んだ。  今回はけっこう長い間歩いていたと思う。丁字路が来て突き当りで僕は立ち止まる。  少し疲れた僕は、休憩しながらなんとなく右を見た。  向こうはきれいな青空だった。  反対に左を見ると、どんよりと灰色の空が広がっていた。  僕は左手に持った棒切れを地面に立てる。  昔の僕だったら、そんなことはせずに右を選んでいたのかもしれない。あるいはしばらく悩んで立ち止まっていたかもしれない。  カタン。  棒は左に倒れる。  棒切れを拾うと、僕は当たり前のようにその道を進んだ。  僕は知っている。  僕が選んだ道に正解も不正解もないのだ。  あの頃の僕の心の中にはいつも後悔が残っていた。背後にある楽しげな声を聞いて、何度も僕は後ろを振り返った。やっぱり向こうの道の方が良かったのではないか―そんな感情に僕はいつも怯えていた。  そんな風に思っていても、全体的に見れば僕はけっこう良い方に進んでいた。  良くない道を選んだと思っても、どこかで必ず状況が変わるのだ。  そのとき、僕は気がついた。  どんな道を選んでも―たとえ気に食わない道であっても―そこそこにはやっていける。だとすれば悩むだけ無駄なんだ―と。  それから僕の悩み事はなくなった。  流されるだけの人生も、そこに運命のようなものがある気がして、悪くはないように思えた。  今では後ろを振り返ることもなく、棒切れが示すその道を進める。白い塀に挟まれたその道を。  同時に僕は満たされることもなくなっていた。たぶん、心が満たされる―その感覚すらも忘れかけていたんだと思う。  いつも中くらいの気分のまま、僕は歩き続けていた。  いつの間にか、灰色だった空は薄っすらとした青に変わっている。  結局はこうなる。  この空のように、僕の心は大きく荒れることも晴れることもなく、言ってみれば穏やかなままだった。
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