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「もしも迷惑でなければ、私は一生をかけて悪人さんに恩返しをしたいです」
「迷惑だ」
「じゃあどうやってお礼をすれば……」
「そうだな……」俺は目を閉じる。長い一日だった。昨日目を覚ました時には、次の朝帰る場所をなくしていることなど想像すらしていなかった。組織を抜けた俺は昨日までとは違う人間になっただろうか?
目を開けるとすぐ近くに彼女の顔があった。真剣な表情で俺の答えを待っている。
「あんたの、目が見えるようになったら、この町の夕日がどんな色に見えるのか、教えてくれ。道端に咲く綿毛のついた花や、川べりの水鳥や、路地裏の野良猫の毛、あんたから見た色が、俺の見てる色と、同じなのか、それを教えてくれ」
彼女がうなずく。
「でも私はやっぱり一番に悪人さんの顔が見てみたいです。私の恩人。どんなに優しい顔をしているのか楽しみで仕方ないです」
「それなら……少し眠るから、俺の顔を見せてやる代わりに、夜が明けたら起こしてくれ」
彼女の肩にもたれ、もう一度ゆっくりと目を閉じた。もしも再び目を開けることができたなら、その時は少しくらい世界の色が違って見えたらいい。そう思った。
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