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スヌート
しんと静まり返った礼拝堂を、手を引かれて歩く。
「迎えに来た」
一言だけそう言って、あとは背中を向けて歩くのは随分背の高い男だった。
男の腰に、変わった飾りのついたベルトが見えた。
白いシャツに黒いズボンのシンプルな服装に、黒い鳥が羽を広げた彫り物があしらわれた黒いベルト。
対して僕は泥と煤まみれの酷い格好だ。
男の手が離れたと思ったら、狭い礼拝室に押し込まれた。見上げれば尖った屋根の下にあるそこは、秘密基地のように誰からも見られず、僕の心を少し愉しくさせた。
疲れ果てていた僕は、抵抗する気も起きず、男に言われるままに石の台に肘をつく。
「祈れ。その後あの鐘を鳴らしたら、振り返らずに戻ってくるんだ」
男は何の感情もこもっていないような、かといって冷たくもない声音でそう言って出て行った。
男が長い指先で指し示して行った先には、壁の窪みに小さなベルがぶら下がっていた。
何を祈れって?
どうせ神様なんかいやしない。
祈ってもお腹が空いていて死にそうなことに変わりはないし、冷たい床がふかふかのベッドに変わるわけでもない。
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