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「商品の入ったダンボールは、お前が行った倉庫で、綺麗に整頓されて棚に並べられてただろ。でもな、中の商品はところどころ抜けていた。そして、大半のダンボールの中身は紙くずだ」
「紙くず?」
「いらない書類、反故紙だよ。お前には気づかれないように虎田が誘導して、在庫チェックが行われたんだ」
鵺村は、運ばれてきたホッケの皿を見つめていた。虎田…そういえば工場にいるはずのあの男が、何故本社にいるのだろうと、復帰してからの鵺村は思っていた。
「当時、ダンボールは無かった。いや、あったが、あれは本社から送られてきたものや、工場で作成された不要の書類や伝票が中に詰まってたんだ」
悪かったな、と皆本は決まり悪そうに笑ったが、鵺村には悪びれた風には見えなかった。
二年前から、本社の人間は誰も工場に行ってなかった。工場の者を呼びつけることはあるが、こちらから工場へ出向くことはなかったという。だから、このことを知っているのはほんの数人だと、皆本はまた笑った。
「ウチの工場だけでなく、あの地域全体が閉鎖される話が出てたが、それと同時に、ウチの会社はそのタイミングに合わせて大々的にリストラをしたかったんだ、工場の人間を」
「何故、あそこの地域が閉鎖されるんですか?」
「物流の流れが変わったんだよ。今、この業界では企業が次々と自社の倉庫を持ち始めてる。そしてなによりウチの会社は、もうそこまで在庫量を保持していない」
「そんな…」
本社の人間は、工場の人たちが解雇されることを薄々知っていたということか。鵺村たちの会社は、工場を処分することで、所有地売却に因って経営破綻を防ぐという対策を掲げたのだと、皆本は言う。けれど、自殺した作業員のように現状を知った者も工場側にはいただろう。
鵺村は、身体を震わせながら溜め息を吐いた。
「オレは、工場破綻を露呈するために、この会社に雇われたんですか?でも」
「ああ、最後の一週間でデータをごまかしていた在庫が、お前が分かるように仕組まれてたんだよ。お前がそれを本社に報告するという予定だった」
要するに、鵺村は反発する工場側に最後通牒のような役割を果たすために、出向かされたわけである。皆本が今夜、鵺村に語ったということは、すべて計画通りに事が運んだことの証明でもあるのだろう。
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