猿谷さん

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 研修を終えた鵺村が、独特なランプの物流を扱う営業部署に配属されて二、三ヶ月経った頃、部内メールで「外部監査が入る」と連絡が入った。監査というのは社の内部監査は四ヶ月ごとに行われ、外部監査は年一回行われるもので、珍しい話ではないらしい。  監査というので初めは会社が不祥事でも起こしたのかと恐る恐るそのニュアンスで営業の先輩に尋ねると、先日の飲み会で「三十路になった」とぼやいていた皆本誉に笑い飛ばされてしまった。 「そうじゃないよ。どこの会社もやってることだよ。そんなにビビらんでもうちの部署は、まあ完璧に書類をファイルしてあっから大丈夫だ。面倒くさいことに全部の書類を七年間保管してある」 「七年間ですか?すべての書類を?」  確かに入社した当初、事務業務の女性から言われたことは「どんな書類も捨てるな」だった。シュレッダーにかければいいのかと思っていたがそうではなく、所定の位置に置かれたダンボールに、皆が不要になった書類を投げ入れていた。そのダンボールは梱包されると業者が引取りに来てどこかへ運んでいく。会社でトランクルームでも借りているのだろうか。 「大抵は半年前の書類を指定されるから、それを法務部に持っていけばいい」  そんなことを言っていた皆本だったが、監査当日、営業部は法務部から呼び出しを受けた。  法務部が指摘した書類に記載されていた商品は特殊成分を少量含んだ製品だったので、工場での分析表が必要となったのだ。その分析表の原本を工場から送ってもらう手はずを取っていたのだが、何故か本社に届かない。 「郵便物が届かないなんて、ここは日本だぞ、そんなことあるか」  イタリア出張帰りの課長の怒りに鵺村が「はあ」と言ったまま黙っていると、皆本が助け舟を出してくれた。上司である近藤の怒りを今の段階で抑えておく方が、部署にとって得策だと分かっているからだ。 「良い機会だからさ、鵺村、工場研修行ってついでに書類取ってこいよ。まだ行ったことないだろ?」  皆本は飲みの席で、「一度行ってみろよ」と言っていたセリフをそのまま持ってきた。 「そうか、鵺村はまだ行かせてなかったな。じゃあ都合つけて明日にでも書類取ってきてくれるか。ついでに工場研修も兼ねて行った方が良いだろう」
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