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倉庫での在庫管理の仕方を教えてもらった鵺村は、翌日から倉庫へ通い、運ばれてくる箱に書かれている商品の項目を数え上げる単純作業を、のんびりとやることになった。一度、書類の原本を届けに本社に出勤しただけで、通勤時間は長いが工場への出勤の方が楽に感じたのは、工場で責任ある仕事をするわけではなかったからだろう。それに、棚卸が終われば、本社に戻れるという期間限定の出勤だ。
鵺村が単純作業に飽きた頃、研修に来てから二週間が経とうとしていた。
良かった。自分がいる間に本社のデータと在庫の数量が一致するだろう。研修もあと一週間で終わり、再来週からまた本社への通勤となる。本社へ出勤したのは、分析表の原本を受け取って工場からの帰り道に寄って以来だ。
鵺村は肩で深い息を吐き、いつものように第二工場の倉庫で一日の最後の作業になる業務日誌をつけ始めた。すると二階でガタッという音がした。そちらに目を向けると、階段を上がったところにあるドアが、また開いている。また、というのは、鵺村がいつも目を上げると、二階のドアが細く開いているのだ。それもいつも一人でいるときに。
ここに来て一週間目に日誌をつけていてそれに気づき、鵺村は階段を上がって見に行ったことがある。その部屋は、虎田から「二階は棚卸が終わってるから、入る必要は無い」と言われている部屋だった。頻繁にドアが開いてるので、虎田に報告すると、鍵が失くなっているという事態が発覚した。虎田は動揺を露わにしたが、鵺村の手前、すぐに平静を取り戻し、「今度閉めておくから」とその場をうやむやにした。
「鍵が失くなるって結構大きな問題じゃないの?」
鵺村は呆れたように溜め息を吐き、階段を上る。
気づくと開いているドアだったので、建付が悪いのかと見つけるたびに閉めに行っていたが、音がしたのは今回が初めてだ。
「なんか落ちたのかな」
そっと開いているドアから覗くと、やはり分厚いカーテンで締め切られて中は暗い。
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