第1章

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 私を見るなり彼女の顔色が変わったように感じたのは気のせいか。おはようと言う声もどこか上ずっているように感じた。 「おはようございます」  少し他人行儀な挨拶になってしまったのは致し方ない。長い間会っていなかったのだから距離感がわからないのだ。何を話していいのかもわからず気まずい沈黙が流れる。 「ああ、ミサキ」  その声に振り返ると母がいた。買い物袋を提げている。 「売店で身の回りの物買ってきたの。ほら、何も持ってこなかったでしょ」  苦笑を浮かべた母は叔母の方を見る。 「じゃあ私、いったん勝彦のところに行くわね」  勝彦とは叔父のことだ。私が来る前に、母と叔母は何らかの段取りをつけていたようだ。 「気を付けて」  叔母の言葉に母は手を挙げ、私は会釈をした。  廊下に出てエレベーターへと向かう。 「助かったわ。お母さんがすぐ来てくれて」 「どうして?」 「だって叔母さんって言っても赤の他人みたいなもんでしょ。何しゃべっていいのかわかんなくて」 「お祖母ちゃんのこと訊けばよかったでしょうに」 「あ……。そうよね。で、お祖母ちゃんの様子はどうなの?」 「一応安定はしたみたい。意識はまだ戻らないけど」  このまま逝っちゃうかもしれないわね、と母が独り言のように言った。私はまだ肉親の死に直面したことがない。もしも祖母が亡くなったら、私は泣くのだろうか。彼女との思い出なんかほとんどなくても。  一階に出て玄関ホールに差し掛かったところで母が、 「ごめん、ちょっと待ってて。トイレ行っとくわ」  パタパタと駆け足で去っていった。  待合のベンチに座り携帯を出した。小さな画面を見つめていると、少し離れたところに人の気配を感じた。母が戻ってきたのかと思い顔を上げると、見知らぬ女性が立っていた。私と同年代くらいだろうか。こちらをじっと見ている。何か言いたげな表情だ。  誰だろうという思いで首をかしげて見せた。すると彼女は私の顔をじっと見つめたまま、 「エミちゃん?」 「はい?」 「北村エミちゃんじゃない?」  人違いか。確かに私の苗字は北村だがエミではなくミサキだ。そんなことを考えている間にも、相手は懐かしそうな表情を浮かべながら、 「私よ。福井カヨ。小学校一年二年と同じクラスだった。あ、私は二年の一学期で県外に引っ越しちゃったけどね。でもまた戻ってきたの。エミちゃんはずっと……」 「ちょっと待って」
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