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私を見るなり彼女の顔色が変わったように感じたのは気のせいか。おはようと言う声もどこか上ずっているように感じた。
「おはようございます」
少し他人行儀な挨拶になってしまったのは致し方ない。長い間会っていなかったのだから距離感がわからないのだ。何を話していいのかもわからず気まずい沈黙が流れる。
「ああ、ミサキ」
その声に振り返ると母がいた。買い物袋を提げている。
「売店で身の回りの物買ってきたの。ほら、何も持ってこなかったでしょ」
苦笑を浮かべた母は叔母の方を見る。
「じゃあ私、いったん勝彦のところに行くわね」
勝彦とは叔父のことだ。私が来る前に、母と叔母は何らかの段取りをつけていたようだ。
「気を付けて」
叔母の言葉に母は手を挙げ、私は会釈をした。
廊下に出てエレベーターへと向かう。
「助かったわ。お母さんがすぐ来てくれて」
「どうして?」
「だって叔母さんって言っても赤の他人みたいなもんでしょ。何しゃべっていいのかわかんなくて」
「お祖母ちゃんのこと訊けばよかったでしょうに」
「あ……。そうよね。で、お祖母ちゃんの様子はどうなの?」
「一応安定はしたみたい。意識はまだ戻らないけど」
このまま逝っちゃうかもしれないわね、と母が独り言のように言った。私はまだ肉親の死に直面したことがない。もしも祖母が亡くなったら、私は泣くのだろうか。彼女との思い出なんかほとんどなくても。
一階に出て玄関ホールに差し掛かったところで母が、
「ごめん、ちょっと待ってて。トイレ行っとくわ」
パタパタと駆け足で去っていった。
待合のベンチに座り携帯を出した。小さな画面を見つめていると、少し離れたところに人の気配を感じた。母が戻ってきたのかと思い顔を上げると、見知らぬ女性が立っていた。私と同年代くらいだろうか。こちらをじっと見ている。何か言いたげな表情だ。
誰だろうという思いで首をかしげて見せた。すると彼女は私の顔をじっと見つめたまま、
「エミちゃん?」
「はい?」
「北村エミちゃんじゃない?」
人違いか。確かに私の苗字は北村だがエミではなくミサキだ。そんなことを考えている間にも、相手は懐かしそうな表情を浮かべながら、
「私よ。福井カヨ。小学校一年二年と同じクラスだった。あ、私は二年の一学期で県外に引っ越しちゃったけどね。でもまた戻ってきたの。エミちゃんはずっと……」
「ちょっと待って」
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