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失態(エリオット)
これほどの失態を犯したのは、どのくらいぶりだ。
エリオットは起こってしまった現実に痛い程に奥歯を噛みしめていた。
捕らえた暗殺者の検死をしたのはエリオットだ。話によれば発見時はまだ微かでも息があったという。検死をした時にも、ほんの僅かだが体温はあった。ただ、直ぐに消えて行きそうなものだった。
何よりも口元からした臭いに、危険を感じて解剖を行わなかった。あの場を汚染させるわけにもいかず、他の医療府やクラウルとも相談して決めた事だった。
だがあそこで解剖をしておけば見抜けたはずだった。毒に詳しいオリヴァーを呼べば良かったのだ。
遺体を乗せた馬車が襲われ、遺体は消えた。オリヴァーの見解としては、仮死状態にする毒もあると言う。しくじる事が多く本当に死ぬリスクがあるが、成功すれば欺ける。
まんまと欺かれてしまった。
「くそ!」
考えれば考える程に自分の甘さに腹が立つ。自室で白衣を脱いだエリオットは、感情の波を抑えきれずにいた。
「なーに荒れてるの?」
不意に戸口でした声に、エリオットは振り向く。そこには私服に着替えたオスカルが腕を組んで呆れていた。
「美人台無し。エリオット、落ち着いて」
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